6月 羽黒三山の禁忌の神域、湯殿山参詣


“語るなかれ、聞くなかれ” 
口外禁止の秘境、湯殿山を訪ねて。
01②湯殿山出発☆DSC09987s.jpg

2018年6月某日
 東北屈指の霊場、出羽三山の中でも特に秘中の秘として、別格扱いで崇敬されてきた神域がある。湯殿山だ。
 標高1,504m。月山の南西、出羽三山の奥宮として知られる湯殿山は、古く山自体が神の御座として、人工的な信仰の場を設けることを禁じられてきた。そのため湯殿山神社には本殿、拝殿が存在せず、その御神体は古来から“語るなかれ、聞くなかれ”と戒められてきた。かつて“奥の細道”でこの地を訪れた松尾芭蕉も「語られぬ湯殿にぬらす袂かな 」と、詠むのみにとどめている。このご時世、未だそんな場所があることにそそられない旅人はいないだろう(笑)。

02①湯殿山到着☆DSC01274s.jpg03④湯殿山鳥居☆DSC01444s.jpg08⑪湯殿山参篭所☆DSC01493s.jpg
06⑧湯殿山仙人沢空海像☆DSC01461s.jpg07⑨湯殿山仙人沢ミイラフェイク☆DSC01465s.jpg04⑤湯殿山仙人沢玉垣供養碑☆DSC09953s.jpg

 湯殿山へは山形方面から山形自動車道で月山IC、112号線経由で約30分。そこから有料道路(400円)を終点まで登ること約15分。参詣の起点となる大鳥居がそびえる仙人沢駐車場(無料)に到着。自家用車はここまでだ。この先、御神体のある本宮までは専用の参拝バス(往復300円・片道200円)または、徒歩で参道をさらに1km程登る。
 仙人沢駐車場には宿泊もできる参籠所や売店、レストハウスが立ち並び、一角には空海上人の「行人塚」をはじめ、以前「大日坊」(詳しくはこちらのブログを参照)で参拝した、即身仏の“模擬像”も覆屋に奉納されている。
 資料によれば、本宮は梵字川の流れのほとりに鎮座し、御滝から神橋に至る川の激流沿いに13の末社が祀られているらしい。“御沢駈け(おさわがけ)”と呼ばれるこの登拝修行は道のりが危険なため現在、一般の立ち入りは禁止されている。その代わり、バス通りでもある参道にも遥拝所(石祠)が幾つかあり参拝できるようだ。梅雨の晴れ間も手伝い、連れと相談のうえ、ここは巡拝をしながら本宮入口まで徒歩で向かうことにした。

35㊹湯殿山本宮参拝バス参考☆DSC01306s.jpg12㊻湯殿山帰り雪渓☆DSC01322s.jpg13⑭湯殿山途中☆DSC01432s.jpg14⑯湯殿山途中朱橋☆DSC01427s.jpg
15日⑱湯殿山途中朱橋より☆DSC09937s.jpg18㉓湯殿山途中滝☆DSC01392s.jpg24㉛湯殿山途中小社☆DSC09891s.jpg
29㊱湯殿山途中樹花☆DSC01330s.jpg26㉝湯殿山途中小社☆DSC01338s.jpg25㉜湯殿山途中小社☆DSC01347s.jpg27㉞湯殿山途中小社☆DSC01342s.jpg
30㊲湯殿山本宮入口☆DSC09875s.jpg33㊶湯殿山本宮入口☆DSC01288s.jpg湯殿山三社御朱印 s.jpg

 季節柄、沿道は新緑と残雪の清々しい景色だ。時折現れる石祠の背後には、神仏が祀られた小高い峰が鮮やかな翠をたたえている。
 歩き始めて約15分、渓谷に架かる朱塗りの「御沢橋」が見えてくる。欄干のたもとには、参拝者の安全を守護する常世岐姫神(とこよくなどひめのかみ)の石祠もある。近くには大沢神社の祠も見え、傍らには赤褐色の山肌を流れ落ちる小滝が涼しげな音色を奏でていた。
 夏を告げるタニウツギの花が目を引く道中では、赤い頭巾をまとった「姥権現」や、丹生都日女神(にぶつひめのかみ)を祀る「丹生水上神社」に参拝。ちなみに、この場所から湧き出る“丹生鉱泉”は、かつてこの地にあった岩清水小屋で風呂や山菜を用いた食事として提供されていたという。現在、鉱泉は開山1400年の2005(平成17)年を機に、仙人沢参籠所内で“御神湯”として人々に親しまれている。
 仙人沢から歩くこと約25分。参拝バスの終点である本宮入口に到着。ここから本宮へと続く参道は他言無用、さらに写真撮影も一切禁止の神域だ。由緒ある湯殿山の習俗にならい、今回はレポートや写真もご容赦願いたい。氏子によれば「みだりに語ったり聞いたりするとその後、良くないことが…」とのこと。とはいえ本宮では、国内ではおそらくここだけであろう希少な体験に出会える!気になる方はぜひ、自身の目で確かめていただきたい(御朱印は公開!)。

39いさごや☆DSC09536s.jpg41いさごや客室☆DSC09487s.jpg42いさごや☆DSC09676s.jpg
43いさごや☆DSC09691s.jpg45いさごや夕食七夕前菜☆DSC09554s.jpg46いさごや夕食スズキ☆DSC09567s.jpg
47いさごや夕食鮑・月山竹☆DSC09586s.jpg48いさごや夕食☆DSC09627s.jpg50いさごや朝風呂☆DSC01192s.jpg52いさごや朝食☆DSC09659s.jpg

水無月に愉しむ七夕膳。
蒼い海原が迎える常宿の初夏。

 そこから車を1時間程走らせ、いさごやに到着したのは中庭に明かりが灯る時分。穏やかな潮騒に包まれ、夜の賑わいを待つ宿の静けさが興奮ぎみの記憶をそっと鎮めてくれる。
 部屋で少し休んだ後、向かった大浴場「吟水湯」は、オレンジの光彩が湯面に煌く夕映え劇場。絵画のようなその景色に浸り、刻々と闇に溶け落ちてゆく水平線に目を遊ばせる。
 季節の先取りを粋とする日本人。その心は料理にも顕れる。6月のいさごやの夕膳は七夕の趣だ。供された魚は旬の“庄内スズキ”を使った「鱸塩焼の雲丹サバイヨンソースかけ」。この時期のスズキは餌となるアジが陸に近い場所を回遊するため、身に適度な脂がのる。その味わいは箸でホロリと崩れる身の柔らかさと、口中にジワリと広がる上品な旨みで愉しめる。焼物は「活の踊り焼に月山筍」と陶板焼の「山形牛石焼ステーキ」。瑞々しさから香ばしさへ。料理人が目の前で頃合いをはかる所作もまた、料理宿ならではの醍醐味だろう。
 6月の別名は“水無月”。字に反し“水の月”という意味だ。朝一番の風呂から望む、漫々と水をたたえた蒼い海と空は、いつになく感慨深い豊かさだ。暑くなりそうね、と朝から食欲旺盛の連れ(笑)と歓談を愉しみ、すこやかな朝食に元気を得て宿を出発。

55チンクエチェント博物館☆DSC09471s.jpg57チンクエチェント博物館☆DSC09465s.jpg69チンクエチェント博物館☆DSC01062s.jpg
58チンクエチェント博物館トランザム☆DSC09450s.jpg59チンクエチェント博物館☆DSC09420s.jpg60チンクエチェント博物館☆DSC01018s.jpg
62チンクエチェント博物館☆DSC01024s.jpg63チンクエチェント博物館☆DSC01026s.jpg65チンクエチェント博物館☆DSC01046s.jpg67チンクエチェント博物館☆DSC01049s.jpg

車好きなら一度は訪れたい、
チンクエチェント博物館。

 向かったのは、アニメ「ルパン三世」でルパンの愛車としてもお馴染みのフィアットの「チンクエチェント博物館」。排気量500ccの小粋なイタリアンスモールカーとして知られるこの名車の博物館が、ここ鶴岡にあることは実はあまり知られていない。
 施設はいさごやから約20分。国道7号線沿いの“ロッソ カーズ”という外車ディーラーが運営する店内に併設している(店頭にはチンクの中古車もズラリ!)伺えば、ここは平成26(2014)年、震災復興の一環として愛知県から東北のこの地に移転したものらしい。
 国内の耐久レースにもエントリーしている店には、車好きにはたまらないレースカーやドレスアップカーの姿もある。はやる気持ちでスタッフに声を掛け、入場料(大人一人500円)を支払い、早速パーテーョンで仕切られた店の奥にある博物館へ。
 黒のトランザム(!)が入口で迎える施設内には、チンクエチェントの前身となったトッポリーノをはじめ、最初期モデルの479cc(13馬力)のNuova500、昭和33(1958)年に米国に輸出されたUSA、さらには富裕層のビーチカーとして特注されたGHIA JOLLY(シーサイド仕様の籐製シートという珍品!)まで、フィアット 500の歴史を語る希少なモデルが展示されていた。中には平成17(2005)年の日本国際博覧会「愛・地球博」で、イタリア館に展示されていたホワイトチョコレートでコーティング(!)されたフィアット500の姿もある。
 イタリアを代表する大衆車として1957年に誕生したチンクは、生産が終了して50年以上たった今も、現役のクルマとしてシンプルなその機能と美しいフォルムが愛されている。一角にはイタリアのカーグッズなどを販売するコーナーや、ミニカーのレアなコレクション(非売品)スペースもあり見応えがある(2000GT…あった!)。まさに車好き、ルパン好きには素通りできない“ピットイン”施設だ(笑)!

72文下のケヤキ近駐車場☆DSC01215s.jpg70文下のケヤキ☆DSC01199s.jpg71文下のケヤキ☆DSC09780s.jpg
73多福院☆DSC01234s.jpg74多福院☆DSC01238s.jpg76多福院大イチョウ☆DSC09807s.jpg

樹齢900年の大樹の威風。
景色に味わいに宿る祈りの美。

 そこから車で約10分、鶴岡市を南北に貫く赤川沿いの“文下(ほうだし)”と呼ばれる集落区には、国の天然記念物の「文下のケヤキ」がある。八坂神社の神木として守られてきたこの巨木は樹高約28m。推定樹齢800~900年ながら、若枝を伸ばす樹勢は旺盛で威厳に満ち、その巨大さは近づくとさらに迫力を増してくる。ちなみに、木の周囲には目立った看板もなく道も入り組んでいるため、ここへ辿り着くのは少々難儀(笑)。訪れる際は駐車場の確保も兼ね、まずは地区の集会所を目指し、詳しい道のりは地元に方に聞くと早い。また敷地は個人宅のため、見学は来意を告げ許可を得ていただきたい。
 帰りがてら、少し足を延ばして訪れた三川町の「多福院」でも樹齢450年の「大イチョウ」と対面。こちらも樹高約28m、幹回り約5.1m。落雷によってできたらしい幹の裂け目が風格をたたえるその姿は、秋の紅葉の美しさを彷彿とさせてくれる。

81知憩軒通路☆DSC01261s.jpg82知憩軒梅☆DSC01259s.jpg84知憩軒玄関☆DSC01247s.jpg87知憩軒☆DSC09811s.jpg
85知憩軒☆DSC09848s.jpg88知憩軒定食☆DSC09814s.jpg89知憩軒定食☆DSC09833s.jpg90知憩軒定食☆DSC09828s.jpg
77食彩あぐりDSC09864s.jpg78食彩あぐり☆DSC09860s.jpg79食彩あぐり詰め放題☆DSC01263s.jpg80食彩あぐりスイカサイダー☆DSC01268s.jpg

 今回、連れの希望で昼食に訪れた旧櫛引地区(「黒川能」でも来訪/詳細はこちらのブログを参照)の「知憩軒」は、鶴岡の農家レストランの先駆け的存在。駐車場から青梅が実る庭を抜けた先にひっそりと建つ店は、周囲の景色に似合う慎ましい古民家だ。
 気になる昼食のメニューは1種類のみ(1,080円)。“一汁三菜”をベースに自家栽培の野菜や米、庄内産の食材にこだわった素朴で伝統的な家庭料理は、どれも素材の力に癒される薄味で、店の信条でもあるふるさとのすこやかさに充ちている。程近い場所には、地元で穫れる農産物や加工品を扱う産直市場「食彩あぐり」もあり、帰りがてらの土産探しにもおすすめだ(連れはお買い得な“干し椎茸”の袋詰めに嬉々…笑!)。思えば庄内は、特色ある在来作物の豊富さでも知られている。見て食べて、そして感じることで心身をいたわる暮らしの滋味は、この土地ならではの“食と祈り”の関係へと想いをいざなう。
 神仏習合であった時代、湯殿山は今にも増して現在・過去・未来の三世を超越した大日如来が住まう神域だった。それゆえに修験者は、食を断つ即身仏(詳しくはこちらのブログを参照)の荒行で、俗世と切り離された神々の仙境を目指した。その祈りは豊穣の大地を擁する今の庄内からは想像もできない世界だ。しかし、紛れもないひとつの時間軸で繋がった、この地に流れた歴史でもある。
 そんな深い思索の旅へといざなう現代の秘境、湯殿山を参詣できるのは、例年開山期間中の6月1日から11月上旬まで。変化と再生(よみがえり)を果たすとされるミステリアスなこのパワースポットで、あなたはどんな自分に出合えるだろうか。


各施設の詳細と地図はこちら