2024年3月某日
春とは名ばかりでまだまだ冬の気配が残る三月半ば。以前、鶴岡公園を中心とした擬洋風のレトロ建物を巡ったが、中心地以外にも、かつて西田川郡、東田川郡と呼ばれていた鶴岡の郡制時代の名残の建物が点在する。
かたや酒田には現代木造建築の粋を集めた建物があるという。今回は、新旧の建物巡りと酒田のソウルフード、オランダせんべいの工場を見学、そして庄内浜、酒田港のグルメを探求したい。
郡制時代を伝える建物が当時の場所にそのままに。
国指定の史跡でもある東田川文化記念館。
今回最初に向かったのは鶴岡市の藤島地区にある「東田川文化記念館」。明治・大正の建物3棟と藤島地域の歴史資料などを収蔵している、レトロ建物ファンには嬉しい見学スポットだ。
明治11(1878)年、明治政府は郡制を敷くが、旧東田川郡の郡役所が置かれたのがこの藤島。庄内平野のほぼ中央になり、鶴岡市の中心街からは車で15分ほど。
館内には「旧東田川郡郡役所」「旧東田川郡会議事堂」「旧東田川電気事業組合倉庫」の3棟が建築当時そのままの場所に修復保存されている。
旧郡役所及び旧群会議事堂は県指定の有形文化財、さらに土蔵を含む敷地全体が国指定の史跡となっている。「これで入館は無料なんて素晴らしい!」と相方もご満悦だ。
まずは「旧東田川電気事業組合倉庫」で受付を済ませる。郡制が廃止された大正12(1923)年に、東田川電気事業組合が発足。その資材倉庫として大正末期に建てられたのがこの建物だ。
一見和風だが1階のテラス風の下野など、西洋風の建築様式も取り入れられている。また、玄関上の「東」の文字は組合のシンボルマーク、電柱と稲妻を模したデザインに大正モダンを感じる。
建物内は展示室になっており、2階では東田川の歴史を伝えている。ここ藤島は、奈良時代に出羽国府が置かれて栄えてきた歴史を持つ。また最上川支流の藤島川を通じて古くから舟運が行われていた場所でもある。
特に見ておきたいのは「独木舟(まるきぶね)」と呼ばれる一本杉をくり抜いて作られた舟だ。長約14m。現存する独木舟の中では日本最大。平安時代後期に伐採・建造されたと推定され、往時の隆盛ぶりが偲ばれる。
他にも東田川から出土した縄文時代以降の出土品や、国府時代の藤島城の復元模型などが展示されており、1階の象ギャラリーもユニークだ。
次の見学は「旧東田川郡会議事堂」。明治36(1902)年頃の建築と言われる。創建者は不明だが、擬洋風建築と呼ばれる和洋折衷の建物だ。
木造2階建ての1階は、廻り廊下の内側に和室があるつくり。現在は鶴岡市立図書館藤島分館として利用されている。畳の感触が落ち着く空間に、約2万冊の蔵書がびっしり。
2階は「明治ホール」と名付けられた、レトロな雰囲気が漂うおしゃれなイベントホール。利用の用途は広いが、とりわけコンサートにおいては、木のぬくもりある音響が楽しめると好評とか。
最後に「旧東田川郡役所」に向かう。現存する建物は明治20(1887)年に再建されたもの。郡制が敷かれた当初に創建された初代の建物は、明治19(1886)年の大火で焼失したという。
再建時の棟梁は高橋兼吉とその子厳太郎といわれるが、高橋兼吉は当時庄内随一と謳われた人物だ。以前このブログでも紹介した、西田川郡役所(鶴岡市)や山居倉庫(酒田市)なども手がけている。自分達の中ではすっかりおなじみだ(笑)。
もともとの旧東田川郡役所も西田川郡役所と同様のハイカラな洋風建築だったそうだが、再建後は純和風の重厚な建物に生まれ変わっている。
木造平屋建て、建物の内側に中庭のある、回遊式のロの字型構造。随所で伝統的和風建築と西洋的な建築技術を絶妙に調和させている造形はさすがというべきか。
建物の中には、旧郡長室などが当時の面影のまま残されている他、東田川の文化を伝える品物や資料の展示がされている。当時の暮らしぶりを知る台所の様子や、米どころでもある藤島地区に伝わる藁細工文化なども興味深い。
■東田川文化記念館(ひがしたがわきねんかん)
●住所/山形県鶴岡市藤島字山ノ前99
●駐車場/あり
●開館時間/9:00〜16:30
●休館日/毎週月曜日、年末年始(12月29日から翌年の1月3日まで)
●入館料/ 無料
●問合せ/0235-64-2537
●URL/鶴岡市-東田川文化記念館
●駐車場/あり
●開館時間/9:00〜16:30
●休館日/毎週月曜日、年末年始(12月29日から翌年の1月3日まで)
●入館料/ 無料
●問合せ/0235-64-2537
●URL/鶴岡市-東田川文化記念館
街並みの中に地元住民が守る歴史的建造物。
伝統と思いが息づく大山地区。
少し車を走らせて、鶴岡の中心街から15分ほど西に位置する大山地区へ。この大山は、江戸時代に天領であった歴史を持ち、酒造りのまちとしても知られている。
今回のお目当は大山小学校のグラウンド横に移築保存されている「新民館」。明治35(1902)年に建てられた大山尋常高等小学校校舎の一部で、正面玄関とわずかな教室のみが現存する。
二階建ての木造校舎はどこか郷愁を感じさせつつ、玄関上のバルコニーが印象的だ。案内の看板には明治の名匠の手になると説明されているが、人物名までは記されていない。
新民館の名前は、明治9(1876)年に新設された同校が、明治20(1887)年まで「新民学校」と呼ばれていたことに由来するという。
校舎の中には、当時の教科書や教室のしつらいやなどが保管されているということだが、残念ながら、一般公開はされていないようだ。(GW、お盆、大山新酒酒蔵まつりの時期にのみ公開されているとの情報もあるが、古い情報ソースなので各自で確認願いたい。)
また、現地に駐車場はなく、周辺も通学路なので要注意。車の場合は近隣の駐車場を利用し、徒歩で散策することをおすすめする。
■新民館(しんみんかん)
=旧大山尋常小学校校舎(きゅうおおやまじょんじょうしょうがっこうこうしゃ)
●住所/山形県鶴岡市大山2丁目20-2(鶴岡市立大山小学校敷地内)●駐車場/なし
●管理者/大山小学校(所有者/大山小学校同窓会より委託)
●管理者/大山小学校(所有者/大山小学校同窓会より委託)
新民館から徒歩5分足らずの場所には「旧鶴岡警察署高橋兼吉」がある。明治18(1885)年、この場所に建てられた木造2階建ての擬洋風建築だ。以前紹介した旧鶴岡警察署庁舎(明治17年竣工・鶴岡市致道博物館に移築保存)にも似た雰囲気がある。
棟梁は高橋権吉。旧大山分署の本署にあたる旧鶴岡警察署を手がけたのは高橋兼吉。ちょっと名前がややこしいが、権吉は兼吉の副棟梁を勤めたこともあり、親戚筋でもある。
小さいながら明治期の典型的な擬洋風建造物として貴重。平成9(1997)年に大幅な改修工事が完了し、平成10(1998)年には国の有形文化財に指定された。「(旧鶴岡警察署の)ミニチュア版みたいで可愛らしい。」とは相方の弁。
昭和50(1975)年に鶴岡市から大山地区安良町に譲渡された後は、安良町の公民館として活用されており、一般公開はされていない。内部を見学することはできないが、ぜひ新民館とセットで外観を楽しんでほしい。
■安良町公民館(あらまちこうみんかん)
=旧東田川郡警察署大山分署(きゅうひがしたがわぐんけいさつしょおおやまぶんしょ)
●住所/山形県鶴岡市大山2丁目23−23●駐車場/なし
●管理者/安良町町内会
●管理者/安良町町内会
近くの「椙尾神社(すぎのおじんじゃ)」にも立寄ってみた。庄内三大祭りのひとつで300年以上続く「大山犬祭り(6月5日)」が開かれるのがここだ。昔、化け物と戦って村を救った「めっけ犬」の伝説にちなむのだだとか。
参道の途中に、紅白の首輪をつけた狛犬が祠の中に鎮座している。おもわず「可愛い」と声が出る。まるまるとしたフォルムは「めっけ犬」を模したものだろうか?
神社の創建は定かではないが、伝承によれば奈良時代以前の5世紀半ばにさかのぼる。少なくとも中世鎌倉以降、歴代領主の庇護を受けて信仰を集めてきた。
参道口の鳥居は石造り。桃山時代末期のもので、島木と笠木は一石で作られ、関西文化の影響がみられるという。県指定有形文化財でもある。
■椙尾神社(すぎおのじんじゃ)
新しいお部屋で宿時間の楽しみ方がまたひとつ。
「いさごや」での美味なる体験。
いつもお世話になっている「いさごや」に到着。真冬の厳しさはゆるんだとはいえ、日本海の波はいまだ荒い。
ロビーに入ると雛飾りのしつらい。庄内のひな祭りは旧暦で催される。ギャラリーには貴重な古代びなも。
今回のお部屋は新設されたプレミアムフロア「无境(むきょう)」の一室。おしゃれな和モダン。窓が広々として一層良い眺めが旅閉める。
今宵の夕餉のテーマは「春を待つ」。前菜の器もお雛様仕様で季節感ばっちり。食前酒も「桃酒」というこだわり。別注の冷酒は「楯野川 凌冴 純米大吟醸」。超辛口なれどすっきりフルーティ。
お造りはイシナギ、ホウボウ、甘エビ、焼き物にはベニズワイガニ、目の前で焼き上げてくれるアワビ。いうことなくいずれも絶品。温者にはノドグロの煮付け。柔らかく上品な甘辛さがまさに美味。
すき焼きの鍋の上に乗っているのは綿菓子。火を入れると溶けて割り下になるという趣向。肉はもちろん米沢牛。締めの食事は鯛茶漬け。デザートはイチゴのジェラートとチョコレートトルタ。
食事の後は大人の夜時間。ラウンジで読書をするもよし、お部屋で露天風呂を楽しむも良し。
朝食は料亭の個室で海を見ながら。タイトルは「弥生の朝」。いつも楽しみな旬のお魚は宗八鰈の一夜干しと銀鱈の煮付け。鰈の身は柔らかく縁側はぱりぱり。銀鱈はぷりぷりとろとろでうまうま。
■游水亭 いさごや(ゆうすいてい いさごや)
●住所/山形県鶴岡市湯野浜1-8-7
●泉質/ナトリウム・カルシウムー塩化物温泉(含塩化土類食塩泉)
●駐車場/あり
●駐車場/あり
●問合せ/0235-75-2211
●URL/http://www.isagoya.com/(公式)
●URL/http://www.isagoya.com/(公式)
今の匠の粋を集めた現代和風の木造建築。
景観ともマッチも見事な「出羽遊心館」。
二日目は少し趣向を変えて酒田方面へ。「出羽遊心館」は酒田市の生涯学習施設。広大な庭園と数奇屋造りの現代和風建築は、公共建築百選ややまがた景観デザイン賞を受賞している。
設計は茶室研究や数寄屋建築の大家で京都伝統建築技術協会理事長の中村昌生氏。天然の樹木をふんだんに使用し、各部屋それぞれにデザインされた照明器具が設置されているなど、各所にこだわりの意匠が施されている贅沢なつくり。
館内ではお茶とお菓子をいただくこともできる。料金は抹茶150円、抹茶と和菓子のセットが450円。3日前までに予約すれば上生菓子の和菓子がいただけるそうだ。この日は飛び込みだったので生菓子ではなかったが、ひな祭りにちなんだお菓子をいただくことができた。
■羽遊心館(でわゆうしんかん)
●住所/山形県酒田市飯森山三丁目17番地の86
●駐車場/あり
●見学時間/9:00〜17:00
●休館日/毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
●見学料/ 無料
●問合せ/0234-31-3737
●URL/酒田市役所-羽遊心館
●駐車場/あり
●見学時間/9:00〜17:00
●休館日/毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
●見学料/ 無料
●問合せ/0234-31-3737
●URL/酒田市役所-羽遊心館
酒田民のソウルフード「オランダせんべい」。
おいしさを産みつづける工場に潜入。
薄くてパリパリちょっぴりなつかしい風味の「オランダせんべい」は誰もが一度は口にしたことがえるのではないだろうか?実は酒田の会社が作っている。製造販売元の酒田米菓の工場が見学できるということなので行ってみた。
軽い気持ちで入ってみたものの、どこまでも続く工程ラインがすこい。全長なんと545m!日本一の長さなんだとか。とにかく歩く歩く。途中、できたてのおせんべいの試食を楽しみつつ、もはや行脚気分(笑)。
2階はお土産コーナーと手焼き体験コーナー。商品棚にはびっくりするくらいの種類があって選ぶのに迷う。相方も「こんなにいろんな商品があったなんて知らなかった〜。」と嬉しい悲鳴をあげていた。
ちなみに気になるのが「オランダせんべい」の名の由来。なぜオランダ?と不思議だったが、実は山形の方言で「オラダ(私たち)のせんべい」という意味なんだとか。
■オランダせんべいFACTORY(おらんだせんべいふぁくとりー)
●住所/山形県酒田市両羽町2-24
●駐車場/あり
●工場見学/9:30~16:00(最終入場15:40まで)
●駐車場/あり
●工場見学/9:30~16:00(最終入場15:40まで)
●売店/9:00~17:00
●定休日/毎週月曜日(祝日の場合営業、後日振替休日)
●定休日/毎週月曜日(祝日の場合営業、後日振替休日)
一度食べれば美味さの虜に。
酒田港のイカに恋する「イカ恋食堂」。
たくさん歩いて腹ペコ状態で向かったのが、酒田港埠頭の交流説「SAKATANTO」。海を見ながら食事ができるフードコートには山形・庄内産の食材を使ったお店が揃う。
中でも今回のお目当は「イカ恋食堂」。なんといっても酒田港で水揚げされる「酒田船凍いか」を使った新鮮なイカ刺しメニューが魅力だ。どれも美味しそうで目映りするが、まずは定番「イカ恋重(790円)」。そして「イカ恋ニクそぼろ重(990円)」。
どちらもオリジナルの「イカの肝醤油」をかけていただく。とにかくイカがむちゃくちゃ旨い。オクラのつるつる食感もいいニュアンスだ。そしてなんと付け合わせの温泉卵と塩辛はおかわり自由!この塩辛がまた美味しい。
程よく満腹になったところで今回の旅は終了。酒田港埠頭の景色を眺めつつ余韻を味わいながら帰路につく。毎回思うが、知るほどに奥が深い庄内の旅であった。
■イカ恋食堂(いかこいしょくどう)
●住所/山形県酒田市船場町2-5-15(SAKATANTO内)
●駐車場/あり
●営業時間/10:00~17:00
●駐車場/あり
●営業時間/10:00~17:00
●定休日/毎週水曜日
●問合せ/0234-25-0102
●URL/SAKATANTO公式サイト
●URL/SAKATANTO公式サイト